医療・介護業界の経営者が事業に込める想いと、採用活動で体験した困難や成功エピソードを紹介する企画「WELLVISIONS」。第01回は、令和5年8月1日に大泉学園で訪問看護ステーションを開設した株式会社イーズ代表取締役 兼 イーズ訪問看護ステーション管理者の兼田氏に話を伺った。最初から在宅看護に興味があったわけではない兼田氏が、訪問看護ステーションを開設するに至った経緯や訪問看護への想い、ステーション開設にあたって行った採用活動について、順を追って紹介する。株式会社イーズ 代表取締役 兼 イーズ訪問看護ステーション 管理者兼田 幸彦 氏大学卒業後、付属の病院にて看護師として勤務。2年目に趣味である「トレーニング」と両立ができるということで、訪問看護ステーションに転職。そこで訪問看護を一から学び、難しさと面白さに触れ、令和5年8月にイーズ訪問看護ステーションを開設。「安心と安全」を胸に質の高い在宅医療の提供を目指し、訪問看護ステーションを運営している。お世話になった看護師に「心を助けられた」兼田氏が看護師の道を歩むきっかけを伺った。 兼田氏が中学2年生の時、大けがをして入院することになり、そこで看護にあたってくれた看護師に憧れ、看護師になったという。「入院中病院で独り心細い時に、病棟の看護師さんが雑談に付き合ってくれたり、本当に辛いときにはただ寄り添ってくれたり、身体的にだけではなく、精神的にも大きな支えになってくれました。そこで、自分は『心を助けられた』実感を得て、自分もこんな人になりたいと思いました。」(兼田氏)自分が助けられたからこそ、次は自分が誰かの心を助ける側になりたい。 そんな想いから、看護師への道を進んだという。「趣味との両立」を重視して選んだ選択肢元々訪問看護に熱い想いを持っていなかった兼田氏が、どのような理由で訪問看護を始めたのか。兼田氏が訪問看護の世界へ飛び込んだのは、看護師になってから2年目のことだった。大学卒業後附属の病院へ就職したが、理不尽な指摘が多い環境に嫌気がさし、病院を飛び出した。そして、転職活動時に出会ったのが、訪問看護。趣味である「トレーニング」との両立ができると考え、訪問看護の道に進んだとのこと。「面接でなぜ訪問看護を選んだのか?って聞かれて、素直に『トレーニングをルーチンでできるから』と答えました。そしたら素直さを買ってくれて、採用してくれました。筋トレと両立したいと言ったものの、面接してくれた方が認定看護師を持っていて、ここだったらちゃんと仕事できるかなと思い、最初のステーションを選びました。」(兼田氏)兼田氏はここから訪問看護師としてのキャリアをスタートさせた。訪問看護師として基礎を築いた3年。新しい環境への挑戦と、訪問看護の醍醐味訪問看護に転職後はどうでしたか?という質問に兼田氏はこう答えた。「最初の3年間はとてもきつかったです。当時のステーション管理者である男性看護師(面接を担当してくれた認定看護師の方)を『師匠』と仰ぎ、毎日隣で訪問看護について指導いただいたのですが、これまで病棟でしか経験が無かったので在宅医療については何も分からず、説教されてばかりでした。」訪問看護は未経験からの挑戦なので、最初は苦労したという。しかし、師匠と仰ぐ上司に厳しくも、しっかりと訪問看護のイロハを教えてもらい、着実に訪問看護師として成長していた。兼田氏が訪問看護を始めてから3年目、いつも隣で教えてくれた上司が退職することとなった。退職の際に上司から、「どこに行っても通用する、一級品の戦闘力を持つ看護師としてやっていける」と言ってもらえるほど、訪問看護師として成長を遂げていた。ただ、師匠と仰ぐ男性看護師の退職は、兼田氏に大きな衝撃を与えた。その後、兼田氏も新たな環境でさらに訪問看護を磨くべく、訪問診療や居宅介護を運営する医療法人の訪問看護ステーションへと転職した。 新たな環境で、兼田氏はさらに訪問看護の面白みにハマっていく。「患者さんの想いを汲んで、ベストな方向に向けて、ご家族やケアマネさんと上手く調整できるようになったことで、さらに面白みを強く感じるようになりましたね。」(兼田氏)訪問看護ステーションの立ち上げ。師匠からの教えを次の世代に繋ぎ、恩返しをしたい順調に訪問看護師としてのキャリアを築いていく中で、自身でステーションを開設しようと考えた背景を伺った。「自分が師匠に訪問看護の基本をしっかり教えてもらいました。だから、次は自分が後輩たちに、師匠の教えや自分の経験を伝えていくことで、師匠への恩返しがしたいという気持ちが強くなったことが大きいです。」(兼田氏)現場で毎日忙しく働いている状況で、なかなか後輩たちに教える時間がないこと、また自分に教育が任されていなかったことに、歯がゆさを覚えたという。 しかし、師匠への恩返しとして、次の世代にしっかり訪問看護を伝えたいという想いは消えなかった。「訪問看護ステーション内でちゃんと教えてもらえない、マニュアルを渡されて終わり、というところもたくさんあります。そういう現状を見て、自分がやるしかないと腹をくくりましたね。」(兼田氏)自身が師匠から訪問看護をしっかりと教えてもらったからこそ、次は自分が後輩たちに伝える番。 その想いが、イーズ訪問看護ステーション開設に結びついた。SNSで繋がった驚きの縁ステーション開設にあたり、どのような採用活動を行ったのか。 基本的には、SNSを活用して採用したと兼田氏は話す。「メインはSNSです。あとは知り合いに声をかけたりして採用を行いました。SNSでの採用はほぼTwitterで、Twitterに求人内容を載せて、ピン留めしておきました。その投稿にいいねやリツイートをしてくれた方に、直接連絡したりもしました。ただ、結果的に採用に結びついた方は、こちらからアプローチした方ではなく、直接連絡をくれた方たちでしたね。」(兼田氏)求人を載せるだけでなく、積極的に兼田氏から声をかけ採用を進めていった。 Twitterを活用して、採用活動を進め、無事に2名の採用が決まった。また、採用活動を進める中で驚きの縁があったと話す。「応募をいただいた看護師さんの中に、以前私の祖母を実家で看取った際に介入していた看護師さんがいらっしゃいました。お互い実名を伏せてSNSをやっていたので、全く気付かなかったのですが、面接でお話をしてみると祖母の話もでてきて、とてもビックリしました。」(兼田氏)そして新しい仲間も増え、イーズ訪問看護ステーションが2023年8月1日からスタートした。人を惹きつけるには、まず魅力的な存在になる最後にこれからステーションを立ち上げる人や、採用に困っているステーションに対してのアドバイスを聞いてみた。「まず人として魅力的な存在にならないと、一緒に働きたいと思ってもらえないと考えてます。 特に採用だと、条件面はほぼ横並びになるので、面接で話して、選ばれる必要があると思います。こちらも相手を選ぶのと同時に、相手に選ばれているので、自分も魅力的な存在にならないといけないと思います。」(兼田氏)採用はどうしても事業所側が選ぶ側と認識されがちだが、実情は求職者も選ぶ側になっている。 つまり双方が『選ぶ側』かつ『選ばれる側』になるため、選ばれるためには自分の魅力を磨く必要があると話す。「求職者も色々なところを受けて、どの人と働きたいか選んでる。そこが抜けている人が多いんじゃないかなって思います。 だから、外から何か取り付けてキラキラ魅せるのではなく、内側から溢れ出るような魅力を持たないとダメなんじゃないかって思いますね。」(兼田氏)「安心と安全」を胸に、利用者も、ケアマネジャーも、ドクターも、働く人も安心できるようなステーションに兼田氏は「安心と安全」というテーマをもって訪問看護ステーションを運営していきたいと話している。「安心と安全」というのは、利用者だけでなく、ケアマネさんやドクターから安心して任せてもらえるように、従業員も安心して働いてくれるようにしていきたいという意味合いがこもっている。だからこそ、ステーションの名前も、安心や和らげるという意味をもつ「ease」を使っている。「訪問看護は、ただ利用者さんの家に訪問して、熱を測って、薬をセットするだけじゃなくて、患者さんやご家族がどうしたら安心して過ごせるか考えて、行動することが大事だと思ってます。以前のステーションが職種に関係なく、もっと利用者さんのために何ができるのか、次はどこを改善したらもっと良いケアが提供できるのか、皆が考えて行動していた文化がありました。患者さんのために高め合える、活気あるステーションにできたら良いかなと思ってます。」(兼田氏)取材後記「WELLVISIONS」の第01回として、イーズ訪問看護ステーションの兼田氏を取材した。前半ではステーション開設に至るまでの経緯を伺い、後半ではステーション開設にあたりどのような採用活動を行ったか伺った。特に印象に残ったのは、『人として魅力的な存在になるべき』という言葉だ。求職者も事業所も、給与の高さや休みの多さなどの労働条件に目が向きがちだが、一緒に働きたいと持ってもらえるように自分・自社の魅力を磨くということもとても大切だろう。これから採用の競争も激化していくことが予測される中で、果たして自分・自社は求職者に選ばれる魅力的な存在なのか、その魅力を発信できているのかという視点は、さらに重要になってくると思われる。採用のみならず、一緒に仕事をしたいと思ってもらえる魅力というのは、強い武器になるだろう。