今回は、事業所の持続的な成長の鍵を握る従業員エンゲージメントについて解説していきます。組織が成長する上で、従業員の生産性向上や離職率低下は大きなポイントです。これらの要素を考えていく上で、従業員エンゲージメントはとても役立つものとなっています。そこで今回は、従業員エンゲージメントについて、重要性や具体例を交えながら解説していきます。WELLNOVAでは「看護師採用を改善したい」「人材紹介や有料求人媒体を減らして採用コストを抑えたい」事業所さまに、看護師採用の現状分析、採用戦略立案、実行・改善までを一気通貫でご支援しています。看護師採用に関するお悩みは、ぜひお気軽にご相談ください。→サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら1. 従業員エンゲージメントとは?従業員エンゲージメントとは、従業員が自らの職務に対して抱く思い入れや誇り、事業所に対する満足感などを指します。従業員エンゲージメントと似た言葉に、従業員満足度という言葉がありますが、その違いは以下のようになっています。・従業員満足度:従業員が上司や会社に満足しているかどうかの度合いを示した言葉・従業員エンゲージメント:従業員が組織に対して自発的に貢献する意欲の度合いを示した言葉簡単にいうと、従業員エンゲージメントは従業員が所属する組織のことをどれだけ好きか、組織のためにどれだけ行動したいかを表す指標のことです。2. 従業員エンゲージメントが重要とされている背景近年、従業員エンゲージメントが医療・介護業界だけでなく、他業界でも重要視されています。その背景には大きく3つの理由があります。2-1. 人材の流動化1つ目は人材の流動化が進んでおり、組織への帰属意識が薄れていることが挙げられます。自らのキャリア形成を重視する「キャリア自律」=「変化する環境において自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと」が求められる時代となり、自分に目が向きがちになっているため、帰属意識の醸成には従業員の内発的な動機づけが必要となっています。特に、看護師や介護士などの有効求人倍率が高く、引く手あまたな資格職は、他職種以上に流動性が高いため、組織への帰属意識は重要となっています。2-2. 人間関係の希薄化2つ目は、テレワークなどの普及により、対面でのコミュニケーションが減り、職場の一体感が薄れてきていることが挙げられます。様々な場面でのオンライン化が進行していることによって、コミュニケーションの非対面化、職場の人間関係の希薄化が影響しています。医療・介護業界ではフルリモートでできる仕事が限られているため影響は小さいですが、他業界では在宅勤務が増えたことによる一体感の希薄化がかなり進んでいます。2-3. 内発的意欲の認識3つ目に、成果主義の人事評価が浸透する中、形だけの業務遂行ではなく、従業員の内発的な意欲が企業の業績向上に欠かせないと認識されるようになっていることが挙げられます。医療の現場で成果主義を持ち込むのは中々難しいですが、取り入れる事業所が増えてくれば、従業員の内発的な意欲の重要性が増していくでしょう。以下の記事には組織向上に役立つ内容が丁寧に解説されていますので、この記事と合わせて読むことをオススメします。https://wellnova.jp/column/8k-x6-773. 従業員エンゲージメントを構成する要素従業員エンゲージメントを構成しているのは、主に以下の3つの要素です。3-1. 組織理念への理解と共感従業員が組織の理念を理解、共感することであり、仕事の価値や目的を実感しながら働くことで、自身の強みを発揮できるかどうかが重要です。医療・介護の業界は、対人業務であり、患者さんや利用者さんを対応する上で、事業所が掲げる理念やビジョンは、働く看護師や介護士など様々な人の指針となるとても重要なものです。組織の考え方への理解や共感は、事業所や従業員自身のためだけではなく、患者さんや利用者さんへ一定レベル以上のサービスを提供し続けるためにも大切なものとなります。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。定期的な理念の周知仕事が持つ社会的インパクトの説明研修会等の実施3-2. 成長実感スキル向上やキャリア開発の機会が得られていると感じられるかどうかのことであり、適切な評価と前向きなフィードバックが必要不可欠です。努力や貢献が結果につながり、成長実感を感じることができれば、自信をつけることができます。さらに、組織における自身の存在価値を見出すことができ、自己肯定感も高まるため、さらなる行動意欲の促進につながります。医療職や介護職においてはスキルの向上や資格取得、キャリアアップなどに向けて成長を実感できるような体制を整えていくことが重要です。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。適切な目標設定と評価体制の構築研修や教育訓練の実施上司との定期的なミーティングの実施3-3. 心理的安全性心理的安全性は組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態を表します。より具体的には、不安や恐れを感じず、気兼ねなく質問やアイデアの提示ができたり、ミスの報告ができたり、異論を言い合えたりするような状態のことです。心理的安全性があるかないかで、その職場における従業員の働きやすさは大きく変化し、このような状態を実現できれば、コミュニケーションの活性化や信頼関係の構築につながります。医療・介護業界において、普段のコミュニケーションや意見の交換は業務を日々改善、修正していく上でとても重要なものとなります。具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。社内交流イベントの開催多職種カンファレンスの実施アンケート調査の実施これら3つの要素は相互に関係しており、お互いのバランスが重要です。どれか一つでも欠けてしまっていると、エンゲージメントは低下してしまいます。エンゲージメントを構成する要素を理解、意識し、バランスよく取り組むことで、従業員エンゲージメントの向上を図ることができます。4. 従業員エンゲージメントが向上した状態とは?では、この従業員エンゲージメントが向上した状態とはどのような状態を表すのでしょうか?それは、従業員一人ひとりが仕事に誇りと喜びを感じ、前向きな姿勢で業務に取り組んでいる状態を指します。簡単に言うと、前項で上げた3要素のバランスが取れている状態です。具体的には以下のような特徴があります。4-1. 仕事の意義や目的を明確に理解している仕事の社会的意義や事業所のビジョンを理解しており、自らの仕事が持つ意味や目的を深く理解している状態。従業員が意義や目的を理解することで業務に対して熱意をもって取り組むことができるため、事業所としてのサービス品質の向上につながります。4-2. 適切な評価とフィードバックを受けている上司とのコミュニケーションが活発で、適切な評価と建設的なフィードバックが行われており、成長を実感できる環境が整備されている状態。適切な評価によって感じることができた成長実感は一種の成功体験となるため、従業員の自信につながります。自信をもって業務に取り組む従業員が増えることが、組織に良い影響を与えてくれるということは言うまでもありません。4-3. 働きやすい環境が整っている職場環境の改善が進んでおり、ワークライフバランスの重視や福利厚生の充実など、働きやすい環境が整備されている状態。また、心理的安全性も確保されていることで、人間関係においても不安要素なく、伸び伸びと業務に取り組むことができます。このような状態が従業員エンゲージメントが高い状態であり、これらの維持・向上が事業所の持続的成長の鍵を握っています。5. 従業員エンゲージメントを向上させるメリットとは?従業員エンゲージメントを向上させることで、以下のようなメリットがあります。職場の活性化につながる:従業員のやる気が向上し、職場の活性化につながります。その結果、組織全体の生産性が向上します。顧客満足度が向上する:自信をもってサービスを提供できる従業員が増えるため、顧客からの満足度が向上します。仕事の意義や目的を理解しているため、患者や利用者に寄り添った対応が期待できます。離職率の低下につながる:自分の仕事に愛着をもって働く従業員が増え、離職率の低下につながります。また、働きやすい職場環境が整備されていることも離職率の低下につながります。業績の向上につながる:職場の活性化や顧客満足度の向上によって、組織としての売上や利益率の向上につながります。業績が向上することで従業員のモチベーションも向上し、さらなる企業の発展が期待できます。従業員エンゲージメントが高い職場環境の実現は、従業員が仕事に打ち込み、最大限の力を発揮する手助けとなります。6. 従業員エンゲージメント調査従業員エンゲージメントの調査について解説していきます。6-1. エンゲージメント調査の目的調査目的は大きく分けて、下記の3つとなります。従業員が抱える潜在的な課題の可視化まず1つ目の目的が、従業員が抱えている課題や問題を可視化することです。調査を通して、潜在的な問題や障害を把握することができます。これまで見えていなかった部分が見えることで、施策の必要性を判断でき、改善策を検討する際も、より具体的な行動を取ることができます。施策の効果検証2つ目の目的は、行った施策の効果検証を行うためです。実施した施策も、従業員エンゲージメントが向上していなければ、効果が低いということになります。自社に合うやり方や効率の良い施策などを見極めることができるため、無駄なく効果的な施策の決定・実施が期待できます。定着率・離職率の効果検証3つ目の目的は、定着率・離職率の把握・効果検証を行うためです。離職理由や原因、その傾向などを突き止めることが、定着率向上や離職率低下につながります。従業員エンゲージメント調査を具体的な改善策を検討する際に役立てることが重要です。6-2. 調査の種類次に、調査の種類ですが大きく分けて「従業員エンゲージメントサーベイ」「従業員パルスサーベイ」の2種類があります。以下、2つの違いについてです。それぞれメリット・デメリットがあるため自社に合ったものを選択することが重要です。また、時期によって事業所の状況も変化するため、都度都度で調査方法を検討、実施、分析、改善していくことが必要になってきます。6-3. 調査方法と外部ツール調査方法については、自社で作成する方法と外部のツールを利用する方法があります。自社で作成する場合、具体的な目的や調査対象に沿ったカスタマイズが可能となり、細かな要件に対応することが出来ます。例としては、社内での従業員満足度調査や特定のプロジェクトに対するフィードバックなどが挙げられます。一方、外部のツールを利用する場合は、専門的な調査手法や分析が必要な際に効率的です。多くの外部ツールは既に構築されたフレームワークに基づき、時短かつ専門的な分析が可能となります。これらは、市場調査や競合分析など、より広範な視点からの分析に適しています。自社での調査方法と外部ツールの選択は、目的、予算、期間などの要因に応じて検討する必要があります。自社のリソースとニーズを十分に理解し、適切な手法の選択を行うことで、より精度の高い調査と分析が実現します。6-4. 自社で作成、調査する場合自社で調査を行う場合、以下のステップに分けて進めることが一般的です。①調査目的の定義:調査の目的を明確にし、何を達成したいのかを明文化します。目的に応じた質問内容や対象者の選定が重要です。②対象者の選定:調査の対象者を選びます。従業員全体か、部門ごとか、プロジェクトメンバーのみか、目的に応じて選定します。③質問項目の設計:調査の目的に沿った質問を作成します。オープンエンドとクローズドエンドの質問をバランスよく使用します。④調査方法の選定:オンラインアンケート、面談、グループディスカッションなど、調査手法を選びます。⑤調査の実施:予め設定したスケジュールに沿って調査を実施します。進捗を定期的に確認し、必要に応じて調整します。⑥データ収集:取得したデータを集計し、分析に適した形式に整理します。⑦データ分析:データを分析し、目的に応じた結論を導き出します。視覚的な表現(グラフなど)も用いると分かりやすいです。⑧報告書の作成:分析結果をまとめ、報告書として形にします。結論だけでなく、分析過程や考察も記載します。⑨フィードバックの取得:調査結果に基づく改善点や次のアクションを検討し、関係者からフィードバックを取ります。⑩改善策の実施:調査から得た知見を基に、具体的な改善策を実施します。その後、効果を測定し、必要に応じて再調査します。自社での調査は、目的に応じた細かなカスタマイズが可能であるため、具体的なニーズに対応しやすい方法です。計画的に進めることで、効果的な結果を導くことが出来ます。6-5. 外部ツールの例ツールは、大きく分けてエンゲージメントを「①調査特化タイプ」ツールと「②調査と向上支援機能付きタイプ」ツールの2種類あります。下記、ツールをそれぞれいくつか紹介します。①調査特化タイプツールの例モチベーションクラウドサイトURL:https://www.motivation-cloud.com/運営会社:株式会社リンクアンドモチベーション特徴:国内最大級の導入実績による豊富なデータベースとコンサルティングの知見をもとに、従業員エンゲージメントを向上させることができる組織改善サービスwevoxサイトURL:https://wevox.io/運営会社:株式会社アトラエ特徴:生産性との関係が科学的に証明された「エンゲージメント」を9つの指標で可視化。組織の状態を、最小限の負荷で網羅的に捉え、次の行動に繋がりやすいように設計されているエンゲージメントプラットフォームラフールサーベイサイトURL:https://survey.lafool.jp/運営会社:株式会社ラフール特徴:組織解析で企業の強みや課題を明確化し、今後の改善策として適切な対策を提示する従業員インサイトを掘り出し、定量・定性的な手法をもとに実態を把握し、「心理的安全性」と「エンゲージメント」を可視化する組織診断ツール②調査と向上支援機能付きタイプツールの例UniposサイトURL:https://unipos.me/ja/運営会社:Unipos株式会社特徴:働く仲間やスタッフ同士で日ごろの仕事の成果や行動を賞賛し、少額の成果給を贈りあえるピアボーナスツールTUNAGサイトURL:https://tunag.jp/ja/運営会社:株式会社スタメン特徴:経営の想いを反映させた社内制度を軸に「会社やヒト」を知るキッカケを増やし、社内コミュニケーションの活性化や組織の生産性向上を促すツールTHANKS GIFTサイトURL:https://thanks-gift.net/運営会社:株式会社Take Action特徴:組織にとっての貢献を可視化し、承認・称賛のコミュニケーションを活性化させることによってエンゲージメントを高めるエンゲージメントクラウドツールによって、得意不得意が違うので、自社に合う適切なツールを選択し、導入しただけにならないように使い込むことが重要です。7. 従業員エンゲージメント向上における取り組み事例実際に従業員エンゲージメントの向上に向けた施策を取り組んでいる企業を紹介していきます。7-1. 取り組み事例①ガゼル株式会社ガゼル株式会社では、組織拡大のタイミングで一体感のある組織を目指してさまざまな取り組みを中長期で行っています。「理念の浸透」も取り組みのひとつで、半年に一度フォローアップ研修を開催しています。人材育成と働き方改革を目標に取り組んだ組織改革~五十六計画とは~-ガゼル株式会社- きらケア研究所7-2. 取り組み事例②社会福祉法人兼愛会 特別養護老人ホームしょうじゅの里小野社会福祉法人兼愛会 特別養護老人ホームしょうじゅの里小野では、「介護をもっと休める仕事にしたい」という明確なビジョンを持ち、週休3日制を導入しています。介護をもっと休める仕事に 週休3日で理想のワークライフバランスを叶える-社会福祉法人兼愛会 特別養護老人ホームしょうじゅの里小野- きらケア研究所7-3. 取り組み事例③株式会社アール・ケア株式会社アール・ケアでは、「仕事に対する姿勢重視」という珍しい人事評価制度を確立している企業です。仕事に取り組む姿勢と行動の優れた職員が昇格できる仕組みを作ることで、職場環境の改善も実現しています。情意考課を取り入れた、“仕事に対する姿勢重視”の人事評価制度のノウハウ-株式会社アール・ケア- きらケア研究所8. 従業員エンゲージメントに関するQ&Aここでは、従業員エンゲージメントに関するよくある質問をまとめていきます。Q1:エンゲージメントを測定する方法はあるのでしょうか。A1:はい、エンゲージメント測定のための専門の調査会社があり、定期的な従業員意識調査の実施が一般的です。質問紙法やインタビューにより数値化する方法があるため、結果をもとにエンゲージメント向上に活用できます。Q2: コスト面ではどのような負担が発生するのでしょうか。A2: エンゲージメント向上のための取組みには、研修費用や制度設計のための外部コンサルタント費用、サービス導入等の初期コストが発生することがあります。しかしながら、中長期的には離職率低減等の効果で、結果的に採用コストが下がり、プラスになるケースもあります。もちろん、エンゲージメント調査、エンゲージメント向上の取り組みを調べ、外部に頼らず自社のみで完結させることで、費用を抑えることも可能です。Q3: 成果が出るまでにはどの程度の期間が必要でしょうか。A3: 社員の意識改革を伴う施策のため、通常1-2年程度の継続的な取り組みが必要と言われています。経営トップのコミットメントと全社的な支援が不可欠です。従業員にも協力をお願いするため、施策の目的、数値データや成功事例、必要な工数等を説明することが重要だと考えます。Q4::部門間や職種間でエンゲージメントに差が出ることはないのでしょうか。A4: エンゲージメントには部門や職種による違いが出ます。例えば、医療現場の看護師は、事務系部門の社員とはストレス要因が異なります。個々の特性に合わせた施策が必要です。Q5: エンゲージメント向上はコストがかかるとのことですが、投資対効果はどのように検証するのでしょうか。A5: エンゲージメント調査で得られた数値の前年比較や、生産性指標、離職率、顧客満足度などの推移から、相関関係を分析することができます。長期的な視点でPDCAサイクルを回すことが重要です。Q6: エンゲージメントの高い組織の共通点は何でしょうか。A6: 自律性と成長機会の高い職場環境、理念浸透、互いの人格を尊重する組織文化などが特徴です。社員一人ひとりが活き活きと働けることが最大の競争力と言えます。9. まとめ今回は従業員エンゲージメントについて解説しました。事業所が成長していくためには、従業員の生産性向上や離職率低下はとても重要な要素です。その上でポイントとなるのが従業員エンゲージメントであり、従業員が最大限の力を発揮できるような職場環境の整備がカギとなってきます。従業員エンゲージメントを上手に活用することによって、従業員と組織がwin-winの関係を構築していくことが、重要なポイントとなります。特に人材不足や人材の流動性が高い、医療・介護業界では、ますます従業員エンゲージメントの重要性が増していくと思われます。