今回は、カルチャーフィットを重視した採用について解説していきます。カルチャーフィットという言葉は聞いたことがない方もいるかもしれません。最近では企業の採用活動において、マッチング率の向上やミスマッチの防止などが重要視されています。特に医療・介護業界においては、入職した人材の長期的な活躍が必要不可欠です。新しく入った従業員が長期的に活躍してくれるかどうかを見極めるための基準として、注目を集めているのがカルチャーフィットです。今回は、カルチャーフィットの説明から、カルチャーフィットの見極め方、具体的な事例まで詳しく解説していきます。1. カルチャーフィット採用の目的・定義カルチャーフィットとは、「Culture = 文化」と「Fit = 適合」からなる造語であり、採用活動では組織や企業の文化と、そこで働く従業員の価値観、人間関係の適合度を指すものです。組織文化に適合した人材を採用することで定着率向上や組織の活性化を目的としています。2. カルチャーフィットが重視される背景近年、カルチャーフィットが重視されることになった3つの背景を説明していきます。2-1. 人材の定着率向上カルチャーフィットを重視し、採用活動で意識することで、企業が求める人物像と価値観のマッチング度が高い人材を採用できる可能性が高まり、結果として人材の定着率の向上ができると考えられています。2-2. 転職の一般化「終身雇用」という考えが当然ではなくなり、転職を選択する人が増加しました。そのため、企業の中途採用に向けた動きも活発化しており、中途でも組織に適合し、長く活躍してくれる人材の見極めの手段として重視されはじめています。特に医療・介護業界は人材の流動性が高い業界なので、カルチャーフィットの重要度は高くなる可能性があります。2-3. 価値観の共有企業理念や行動指針への共感を大切にする企業が増えており、価値観の共有が採用において重視されるようになってきました。特に近年では、採用活動のオンライン化なども増加しています。オンラインなどの非対面型の採用形式では企業文化になじめるかどうかなどの判断が困難です。その際にスムーズな採用活動の手助けになるのが、このカルチャーフィットとなっています。3. カルチャーフィットを重視した採用のメリットカルチャーフィットを重視した採用活動のメリットを説明していきます。3-1. 早期離職の防止カルチャーフィットの高い従業員は、組織の価値観に共感し、長期間活躍してくれることが期待できます。結果として、入職者の早期離職率の低下により、採用/教育コストの削減やチームとしての安定性向上が可能になります。3-2. 生産性が高まるカルチャーフィットのある環境では、従業員は自身の役割や責任に対して、より責任感を持ち、主体的に業務に取り組むことができるため、生産性の向上が期待できます。受動的に仕事を待つのではなく、1人のメンバーとして何をすべきか考え、主体的に行動する動きが強くなるため、結果として組織全体の生産性が向上します。3-3. 主体性・自主性の向上カルチャーフィットが高い従業員を採用することで、共通の価値観を持つ同僚とコミュニケーションを行うことができるため、相互の意思疎通の円滑化や生産性の向上が可能になります。それによって、従業員自身が会社に対してポジティブな印象を形成することができ、安心して会社に所属することができるため、従業員の主体性・自主性の向上につながります。従業員ごとに目指す目標や行動指針にバラつきがあると、コミュニケーションの前提が崩れ、マネジメントコストも多くかかってしまうため、カルチャーフィットは重要です。4. カルチャーフィットを重視した採用のデメリット次に、デメリットについて説明していきます。4-1. 多様性の低下カルチャーフィットを重視しすぎると、企業文化が凝り固まってしまうため、多様性が失われる可能性があります。新たな考え方を持つ人材を採用することも考え、カルチャーフィットはあくまで指標の一つとすることが重要です。4-2. スキルの高い人材を見逃す可能性カルチャーフィットを重視しすぎると、スキルの高い人材を逃してしまう可能性もあります。スキルフィットとカルチャーフィットの両方をバランスよく考慮することが求められます。スキルフィットとは「個人の能力」と「企業が応募者に求める能力」の一致度のことを指します。特に医療・介護業界は、経験不足が医療事故等に繋がりかねないので、スキルフィットの採用が主流となっているため、カルチャーフィットとのバランスが重要です。4-3. 選考プロセスの遅延カルチャーフィットを重視すると、選考プロセスが遅延してしまう可能性が考えられます。選考プロセスをスムーズに進めるためには、カルチャーフィットの見極め方を明確にしておくことが重要です。この見極め方に関しては記事の後半部分で説明していきます。5. カルチャーフィットを重視した採用を行うためのステップカルチャーフィットを重視した採用を5つのステップに分け説明していきます。5-1. 自社のカルチャーを明確化する自社のビジョン、ミッション、価値観などを明確にし、企業の文化を整理します。組織として大切にしたい価値観や目指す方向が定まっていないと、カルチャーフィットを確かめることができないため、自社のカルチャーの明確化は特に重要です。5-2. カルチャーフィットを評価する基準を設定するカルチャーフィットを評価するための基準を設定します。採用ターゲットの設定や企業の価値観や行動パターンに関する評価項目を整備することで適切な評価体制を整えます。5-3. 面接や選考プロセスでカルチャーフィットを評価する面接や選考プロセスにおいて、候補者の価値観や行動パターンを評価し、企業の文化とのマッチ度を判断します。カルチャーフィット重視の選考のため、候補者との相互の理解を深めるためにコミュニケーションを重視しましょう。5-4. 入職時にカルチャーについて説明・理解する場を設ける採用した新しい従業員が企業の文化に適応しやすくなるよう、社内でカルチャーについて説明したり、理解できる場を用意します。社内のコミュニケーションや研修を通じて、従業員がカルチャーに共感し、行動できるよう促します。5-5. フィードバックを活用して改善するカルチャーフィットの評価や選考プロセスを定期的に振り返り、過去の採用結果や従業員からのフィードバックを参考にしながら、選考プロセスや評価基準を改善していきます。6. カルチャーフィットを見極めるためのポイントカルチャーフィットを判断するためのポイントを解説していきます。6-1. 自社のカルチャーを可視化する自社のビジョン、ミッション、価値観などを明確に定義し、外部に発信していくことで自社のカルチャーに沿った求職者からの応募が高まる可能性があります。また、カルチャーを考慮した「採用ペルソナ」を作ることで理想の人物像の基準を明確にすることができます。6-2. 求職者の価値観を可視化する求職者の履歴書や職務経歴書、面接時の質問などを通じて、求職者の価値観を理解し、可視化します。求職者の過去の経験や行動パターン、自己紹介などから、求職者のカルチャーフィット度を推測します。面接時には複数の社員との面談を行うことで多面的に求職者を理解することができます。また、リファレンスチェックを実施することも有効です。これは前職で一緒に働いていた方に、求職者の人柄や勤務態度について確認することを指します。カルチャーフィットを客観的に知る手段としても有効であり、そこから見えてくる人物像から自社のカルチャーに適合しているか見極められます。6-3. 自社のカルチャーと求職者の価値観を比較する自社のカルチャーと求職者の価値観が一致しているかどうかを確認し、カルチャーフィット度を判断します。ワークショップや施設見学を通して、既存従業員とのやり取りや仕事をする様子から求職者の適性を判断することも一つの手段です。自社のカルチャーと求職者の価値観をすり合わせることで、入職後のギャップを減らすことができます。求職者の今後目指したい方向と、組織の目指す方向が違っていれば、結局入職後のギャップに繋がってしまうため、自社のカルチャーとの比較は大切なステップです。7. カルチャーフィットを見極めるために面接で質問すべきことカルチャーフィットを見極めるためにすべき質問を紹介していきます。7-1. 自社カルチャーに沿った質問第一に自社のカルチャーについての考え方の質問になります。下記、具体例になります。当社は◯◯という理念を大切にしています。あなたは◯◯についてどのように考えていますか。当社の理念は◯◯なのですが、あなたが◯◯を感じた(◯◯について考えた)エピソードがあればお聞かせください。上記のような質問から、自社カルチャーへのマッチング度を測ると同時に、企業が外部へ発信している内容を理解しているかどうかなど、求職者の積極性や意欲を知ることができます。7-2. STAR型の質問をする求職者の価値観を確認するには、STAR型の質問もおすすめです。STAR型の質問とは、採用面接や評価のプロセスにおいて、よく使用される質問形式です。STARは、Situation(状況)、Task(課題)、Action(行動)、Result(結果)の頭文字を表しており、候補者の過去の経験や具体的な事例を通じて評価することができます。下記、具体例になります。○○な状況に直面したときのことを教えてください。(Situation)どのようにして課題を克服しましたか?(Task)そのとき行った具体的な行動について教えてください。(Action)結果、どのようなことを学びましたか?(Result)上記のような質問によって、求職者の人柄や価値観を的確に知ることができます。求職者自身の自己理解が進むと同時に、企業側も求職者を評価しやすくなります。7-3. 逆質問の機会を設ける面接の終盤に、求職者に「何かご質問や不安な点はありますか?」と質問し、逆質問の機会を設けることもおすすめです。回答自由度が高いため、求職者の本音が浮き彫りになります。自社のカルチャーとずれた質問が出ると、そこで自社のカルチャーにはフィットしない人物だと判断することができるかもしれません。8. カルチャーフィット採用の成功事例医療・介護業界の企業・事業所では、事例がほとんどないため、カルチャーフィット採用に成功している他業種の企業の事例を3つ紹介していきます。8-1. 株式会社ココナラ株式会社ココナラは、採用においてカルチャーフィットを重視している企業です。独自の施策を行い、会社のバリューに共感するカルチャーフィットの高い人材の採用に成功しています。参考:ココナラが語る、組織が急成長してもぶれないカルチャーを築く方法|共感採用はなぜ必要か vol.01【Event Report】8-2. 株式会社estile株式会社estieは、不動産データプラットフォームの開発・提供を行っている企業です。創業時は企業理念を持っていませんでしたが、ディズニーやマッキンゼーなど、複数の企業理念・ミッション・ビジョンを学び、自社の理念を作成しました。今では従業員にも浸透し、カルチャーフィットを活かした採用を行っています。以下の記事は、同社社長のインタビューです。参考:ミッション・ビジョンではなく、バリューとパーパスを重要指標に/株式会社estie8-3. ザッポス・ドットコムザッポス・ドットコムは、アマゾン傘下の大手靴小売りサービスを展開している海外企業です。コアバリュー(組織における中心的な価値観)に基づいて採用活動を展開しており、10個のコアバリューそれぞれにSTAR型の質問を多数用意し、カルチャーフィットを確認しています。参考:ザッポスについて完全解説(コアバリューから採用、ホラクラシーまで)9. まとめ今回は、採用活動におけるカルチャーフィットについて解説しました。長期的に活躍してくれる方を採用するためには企業文化とのマッチング度はとても重要なものです。企業を知り、求職者を知り、相互のギャップが少ない中で仕事をすることで生産性やモチベーションの向上にもつながります。医療・介護業界においては即戦力として求められるものが多いため、企業とのギャップが少ないに越したことはありません。また、今働いている従業員が改めて自社を理解するという意味でもカルチャーフィットについて企業全体で考えていくことが重要となります。ぜひ、皆様もカルチャーフィットの考え・手法を取り込んで見てください。