新卒看護師の早期退職は、多くの医療機関が直面する深刻な問題です。特に3年以内に退職するケースが目立ちますが、その背景にはさまざまな理由があります。本記事では、その主な理由と効果的な対策について掘り下げていきます。新卒看護師の離職率の実情ここでは、1年間で離職する新卒看護師の離職の推移をグラフを用いて説明します。2005年以降離職率は下降傾向が見られましたが、2020年のコロナの影響により10%を超える値となり、未だに高止まりしている状況です。なぜ新卒看護師が3年以内に退職してしまうのか?1. ストレスと負担新卒看護師にとって、仕事のストレスと業務負担は大きな問題です。特に環境が変化し慣れない中で、長時間の勤務や急患対応など、過酷な状況下での勤務が身体的、精神的な疲労を引き起こし、早期退職の一因となっています。2. キャリアパスの不透明さ多くの新卒看護師は、将来のキャリアパスが見えにくいと感じています。明確なキャリアプランや成長の機会が与えられない場合、モチベーションの低下や他の職場への転職を考えるきっかけとなります。3. 先輩との関係性の問題先輩看護師との関係性が良好でない場合、新卒看護師は不安やプレッシャーを感じることがあります。先輩が怖いと感じることで、教育や指導が受けづらくなり、職場での適応が難しくなることがあります。4. 教育制度の不備充実した教育制度が欠如している場合、新卒看護師は職場で必要なスキルや知識を身につけることが困難になります。適切なサポートやトレーニングが行われない環境では、成長を実感できず、早期退職の要因となります。5. 現実とのギャップ理想と現実の間にギャップがあると、新卒看護師は失望や挫折を感じることがあります。仕事内容や職場の文化が自分の期待と異なる場合、職場に馴染めずに早期に転職するケースが増えています。新卒看護師のリアルな声ここでは、2000名以上の看護師と面談した人材紹介会社エージェントが多く受けた相談TOP3を紹介します。1.人間関係まずとても多くいただいた相談が職場の人間関係についてです。特に先輩職員やドクターとの関係が悪化すると、看護師は大きなストレスを感じ、人間関係の良い職場が無いか転職を検討し始めます。事業所によっては忙しさが影響して、新人に使える時間がない、また強くあたってしまうなどが発生しており、それらが結果的に早期離職を招くことがあります。2.業務のハードさ想像以上に業務が過酷であり、転職したいという相談も多くありました。特に大学病院などでは勉強会や看護研究など、家に仕事を持ち帰ることが多く、心身共に疲弊し、同期が転職するケースも間近で見ているため、エージェントに相談する方が多くいらっしゃいます。特に【ワークライフバランス】という言葉が広がっている現代では、プライベートを重視する方も多く、残業や持ち帰りの業務が増えると、プライベートとの両立を求め転職活動を始める方がいらっしゃいます。3.給与が低い法人の考え方にもよりますが、新卒看護師は給与が上がりにくい傾向があり、待遇面を理由に転職相談をする方も多くいらっしゃいます。そういった方々は経験が浅くても高給与を提供する美容クリニックや高収入が得られる病院への転職を希望するケースが多いです。特に美容クリニックは日勤のみで高給与なため、夜勤をやりたくない方が流れやすい傾向があります。新卒看護師の退職を防ぐための具体的な対策1. 労働環境の改善もし残業や持ち帰りの仕事が多い環境が離職に繋がっているのであれば、労働環境の改善を図ることが重要です。勤務時間の見直しや適切な休息時間の確保、業務負担の分散化などにより、一人にかかる業務負担を軽減し、看護師の定着を促します。2. 充実した教育・研修プログラムの提供新卒看護師に対して充実した教育制度を整備することで、成長実感を得てもらうと共に、将来的なキャリアにも自信を持ってもらうことが必要です。メンターシップの導入や定期的なスキルアップの機会を提供することで、彼らの成長を支援し、職場での適応をサポートします。3. 先輩看護師との良好な関係構築の推進人間関係面での離職が多い場合は、ドクターや先輩看護師と新卒看護師のコミュニケーションを促進する取り組みが重要です。定期的なフィードバックやサポートの提供を通じて、信頼関係を築くサポートを行い、安心して働ける環境を整えます。4.事業所理解を深めてもらえる採用企画病院見学会の積極実施により、新卒看護師が入社前に実際の職場環境を体感できる機会を提供します。また、先輩看護師との座談会を通じて、日々の業務内容や職場の雰囲気について詳しく知ることができるような機会を設けることで、新人看護師の不安を解消し、働くイメージの醸成や将来の目標設定、キャリアプランの明確化に役立てることができます。5.ミスマッチを防ぐための採用活動入職後にギャップを感じて退職するケースを減らすため、採用におけるミスマッチを防ぐことを目的に、良い点だけでなく悪い点も正直に伝えることが大切です。さらに、悪い点については改善のために進めていることを発信し、改善に向けて動いていることを伝えると良いでしょう。また、面接では看護学生の方々との相互理解を深めることを意識します。そこで将来のキャリアプランや事業所が求職者に期待する仕事内容について具体的に話し合うことで、双方が自分/自社に合うか正確に判断できるようになります。成功事例として学ぶ、新卒看護師の定着を促進する取り組み全国の病院で新卒看護師の定着を図る取り組みが行われております。成功事例としていくつかご紹介させていただきます。事例1: サポート体制の強化聖路加看護大学が報告した「新採用看護師の離職率低下につながる効果的なメンターシッププログラムとは」では、新卒看護師向けに充実したメンターシッププログラムを導入することで、離職率が低下したと述べられています。経験豊富な看護師が新人一人ひとりに個別サポートを提供し、安心して働ける環境を整えることがその鍵となりました。事例2: 労働環境の工夫一般社団法人熊本医師会 熊本地域医療センター病院では、残業削減のために日勤と夜勤の勤務者をユニフォームの色で区別する「ユニフォーム2色制」を導入しています。これにより、医師が指示を出す看護師が一目でわかり、職員のタイムマネジメントの意識が改善されました。さらに、「ポリバレントナース(院内留学やジョブ・ローテーションを通じて、様々な看護単位で活動できるオールラウンドプレイヤー)」を育成し、急な欠勤や業務量の多い部署への応援が可能になります。これらの取り組みにより、残業削減と離職率低下に成功しました事例があります。「ユニフォーム 2 色制」と 「ポリバレントナース育成」による持続可能な残業削減への取り組み (kango-award.jp)まとめ新卒看護師の早期退職を防ぐためには、職場環境の改善と充実した教育・サポート体制の構築が不可欠です。これらの取り組みにより、働くことへの不安を解消し、組織全体の安定と成長に貢献することができます。